
SPECIAL HARDWARE EDITION
国産メーカーの雄の「今の姿」を伝える特別企画
文●安保 亮 Akira Ambo ヤング・ギター編集部 YOUNG GUITAR 機材撮影●竹澤 宏 Hiroshi Takezawa
進化を続けるオリジナリティ 後編
アーティストによる
dragonfly試奏インタビュー

Yuto(Earthists.)プロフィール
2015年の結成から間もなく米国レーベル“Tragic Hero Records”と契約したメタルコア・バンド、Earthists.のギタリストで、数々の海外ツアーも経験。去る6月には飛沫防止透明スクリーンへの映像投影をフィーチュアした有観客配信ライヴが話題に。
Yoma(The Winking Owl)プロフィール
2010年結成の男女混成ロック・バンド、The Winking Owlのギタリストとして2015年にメジャー・デビュー。最新作『Thanksラブレター』(2019年)はエモーショナルなアグレッシヴ・チューンからエレクトロ要素のあるバラードまで、多彩な楽曲を収録。
衍龍(RAZOR)プロフィール
2016年デビューのロック・バンド、RAZORのギタリスト。結成からまだ数年ながら、2枚のフル・アルバムと3枚のミニ・アルバムを発表する多作ぶりで、最新作『掟』(2020年)ではキャッチー&攻撃的なオリジナリティあふれるサウンドを展開。

左から
d-fly : BD666 2H
★サウンド面やプレイアビリティの品質はそのままにコスト・ダウンを図り、より手に取りやすい価格帯を実現したd-flyのモデル。当機はボディーにアルダー、ネックにハード・メイプル、指板にパーフェローを採用したもの。
(価格:オープン・プライス/市場想定税別価格¥258,000)
BORDER CUSTOM 666
★仕様や価格は試奏レポートを参照。
BORDER 7st 666 PREMIUM
★666mmスケールのネックにヘッド角を設けることでナットへのテンションを確保し、ダウン・チューニング時にも安定した弦振動を実現。またハード・メイプルとウォルナットの5ピース構造を採用することで、優れた強度を獲得しているのも特筆点の1つ。(価格:オープン・プライス/市場想定税別価格¥490,000)
メイン試奏モデル : BORDER CUSTOM 666


Yuto(Earthists.)による試奏インプレッション
僕がドラゴンフライのギターを使い始めたのは、RAZORの衍龍(P.183に登場)さんがカッコいいギターをSNSに載せているのを見て、紹介してもらったのがきっかけでした。当時僕らのバンドのチューニングがどんどん下がっていたので、666mmスケールがそれにピッタリだったという理由もあります。色んなモデルの中から“BORDER CUSTOM 666”を選んだのは、以前テレキャスターを使っていたからで、少し似ていますよね。それでいて肘の当たる部分が滑らかに削られているので、抱えていて気持ちいいです。
今回試奏したモデルは同じ“BORDER CUSTOM 666”で、自分の使っているギターと用いられている材が違うはずなんですけど、印象は全く変わらないと思いました。少しゲインが高い気もしますが、自分の好みであるくっきりと聴こえるクリアなサウンドという範疇からは外れていないです。それにフレットが少し細めなので、太い弦を張っていてもピッチが安定していていいですね。ネックは握った感じが若干厚めかもしれないですが、でも手にすんなりとフィットして弾きやすいです。
◀Yutoが半年ほど前から愛用している“BORDER CUSTOM 666"は、当時ドラゴンフライの工房にストックされていた中から選びぬいた1本。ボディーはメイプル・トップ&アルダー・バック。

▲右側からハイ・パス/ロー・パス・フィルター、(上)ブリッジ&ネック・ポジションそれぞれのコイル・タップ・スイッチ、(下)3ウェイ・ピックアップ・セレクター、ヴォリューム。

[SPECIFICATIONS]
●ボディー:メイプル(トップ)、
マホガニー(バック)
●ネック:ハード・メイプル
●フィンガーボード:パーフェロー
●ジョイント:ボルト・オン
●フレット数:24
●スケール:666mm(26.2インチ)
●ペグ:ゴトー“SG381-07MGT”
●ブリッジ&テイルピース:
ゴトー“GE103B-T”&“GE101Z”
●ピックアップ:
ドラゴンフライ“dfh-5N”(ネック)
“dfh-5B”(ブリッジ)
●コントロール:ヴォリューム、
ハイ・パス/ロー・パス・フィルター、
3ウェイ・ピックアップ・セレクター、
コイル・タップ・スイッチ×2
(ネック/ブリッジ)
●価格:オープン・プライス
(市場想定税別価格¥440,000)
▲肘が当たる部分は20Rの丸みで削られており、心地よいフィット感を創出。ルックス的にもキャッチーなアクセントの1つとなっている。
TL系の非対称ボディーを滑らかに歪めた、華麗さと無骨さを併せ持つ不思議な形状が魅力のモデル、“BORDER”。一見シングル・カッタウェイ風だが、実は6弦側が一般的なST系よりも深い18フレット近辺のジョイントとなっていたり、エルボー部に滑らかな丸みが施されていたりと、様々な箇所に理詰めで導入されたオリジナル仕様が見られる。またドラゴンフライはカスタム・オーダーを積極的に行なうブランドなので、同じ“BORDER”でも1本1本の個性が際立っており(それは他の機種でも同様)、例えば左ページに掲載した6弦モデルと7弦モデル、それにコストパフォーマンス・ヴァージョンであるd-flyシリーズの6弦モデルを見比べれば、それぞれに異なる魅力を持っていることが分かるはずだ。ここではこれらの中から代表して、中央の“BORDER CUSTOM 666”をメインに試奏させていただいた。
モデル名にある通り、当機は648mmの一般的なロング・スケールよりも18mm長い、666mmスケールを採用。しかし持ってみた時の違和感はゼロで、初めてこのネックを触る人も予備知識がなければ気付かないレベルだと言っていいかもしれない。形状自体は幅広タイプとは真逆の丸みがあり、おそらく誰にでもフィットするはず。ボルト・オン・ジョイントのヒール部はわりと角張った形だが、例えば高音側へのポジション移動時に親指が接合部でピタッと止まってくれるのは、むしろ安心できると言えそうだ。また先述した通り、肘が当たる部分はトップとバックが丸く滑らかに大きく面取りされており、腋やあばら付近まで含めた右腕全体の居心地が満点。身体と一体となってくれるようにも感じられる。
軽くストロークしてみると、生音の時点でボディーの共鳴が非常に豊かであることがすぐに分かる。その要因の1つが弦振動のストレートさで、乱れや暴れが極めて少なく、おかげで耳がピッチをつかみやすい。アンプにつないで鳴らすとさらに分かりやすく、コードを弾いた時の構成音1つ1つがクリアに響いて、濁りの少ないハーモニーになる。倍音はたっぷり出ているのだが揺らぎが少なく、トーンが真っ直ぐに伸びて音色が安定。これはもちろん666mmスケールによる弦長拡大の恩恵だろうが、それ以前にギター全体の作りが極めて精密であることが、最大の理由だと感じられた。
トーン・バランスはパワフルながら均整が取れており、高音域はややダークだが中音域に太さが感じられ、低音域から重低音にかけては無駄なく整理されている印象、しかし迫力を感じさせるに十分な伸びもある。コイル・タップ・スイッチでゲインを落とせば、トーンはよりスッキリ。アンプをハイ・ゲインに歪ませても、ヴォリューム操作でクリーンまでカヴァーできるような柔軟性もある。そして特筆すべきは、ハイ・パス/ロー・パス・フィルターの存在だ。これはノブが中央で軽く止まるようになっており、そこから左右に回すことで高域と低域をカットする仕様。例えばブーミーになりがちなネック・ポジションの膨らみをスッキリさせたり、耳に刺さるブリッジ・ポジションのエッジを落としたりと、レコーディングはもちろんライヴ・ステージでの演奏中にも積極的に使いたくなる。ちなみにノブのトルクが重めなので、軽く触れた程度ではセッティングが変わってしまう心配もない。ぐるぐると回せばワウ風の効果を得ることもできる。
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